コモンウェルス、号して、世界に冠たる魔法文明。
精強なりし、有翼魔法重騎兵の武威は轟きの果てを知らず。
魔法に支えられた磐石な経済基盤は富国の誉れに輝く。
おお、富強なり黄金のコモンウェルスよ!
汝こそは二百年にわたり覇者として輝き続けた太陽なのだ。
……しかして、だからこそ誰もが忘れてしまっていたのだ。
太陽とはいずれ沈むのだという栄枯必衰の理を忘れた報い。
ロスバッハにおける王軍の瓦解は彼らの幻想を吹き飛ばす。
栄光と富強の夢は、いまや、跡形すら残っていない。
先王の敗死と共に、今や、誰もが、否応なく目を覚ますのだ。
……目覚めの衝撃は、残酷なまでに過酷だった。
間歇泉のごとく噴出すは、二百年の溜まりに溜まった矛盾。
王権と、セイムの根深い対立。
魔法の使える市民と、使えぬ無能者の問題。
瓦解した王軍と、敵意を隠さない周辺諸国。
コモンウェルスは、混乱と混迷に沈まんとしている。
なればこそ、しかして、運命はいまだ定まっていない。
コモンウェルスの行く末は、誰にもわからぬものなのだ。
もし、という言葉は歴史の禁忌だ。
ありえたかもしれない可能性。
ありえなかった現実での帰結。
しかして、結実するまでは全てが可能性に過ぎない。
可能性は、無限に枝分かれしている。
違う未来への道もまた、あるのかもしれない。
動乱の時代において、人は何になれるのだろうか
英傑、英雄、怪雄、はたまた孺子(じゅし)として暗君、暴君。
さながら、染められていない糸なのだ。
望めども、色合いがいかほどになるかは知れず。
その先に何があるかも知れず。
紡がれるまで、歴史の行方は五里霧中がごとし。
滅びの炎が迫り来るとしても、滅びてやる道理もないのだ。
沈んだ太陽とて、また、昇りうる。
動乱と変革は紙一重。
混乱の中から、何が生れ落ちるのだろうか?
動乱の時期に、先行きは不透明そのもの。
しかして、時代は否応なく動いてゆくのだ。
銃と魔法の轟きの先に、打ち立てられるべき新秩序が
迫りつつある……